水曜日の夜、はいつもコップに耳をあて隣人の音を聞いて過ごす。 この時間、部屋には彼しかいないのだが、いつも何か音が聞こえてくる。

今日は何も聞こえない。まったく何も。変だな。いつもと全然ちがう。通りから灯りがついてるのが見えたから、部屋にいるはずなのに。

しばらく、沈黙が続いた。ぼくの注意がそれはじめた頃、急に何かがこすれるような大きな音が聞こえてきた。すごく大きな音だ。まるで部屋に巨大な岩でも押しこもうとしているみたい。まさかそんなことないよな、と思いなおしてさっきより集中して耳を傾ける。

音は弱くなった。上のほうへ移動してるみたいだ。それからまた静かになった。かなり長い間。壁の上のほうなら聞こえるかもしれないと思って、ゆっくりコップを上のほうへずらせていると、壁の向こう側で同じ音がするのに気がついた。ぼくはギョッとして固まった。そのあと、また音はやんでしまったけど。

沈黙がずっと続いている。長い間ずっと。足はこわばってくるし、足先がむずがゆくて気になってしょうがない。でも、ぼくはじっとしていた。15分くらい経ったころ、また物音が聞こえてきた。なじみのある音だ。彼の関節が鳴る音、床を歩く音、灯りを消す音、それにドアのきしむ音。なんだ、がっかりだな。寝ることにしよう。

万事いつも通り平穏だ。